日天
「できましたよ」
二十分ほどで昼メシができた。
炊きたての玄米入りの白米、卵焼き、味噌汁、サラダ、
そしてメインの肉とセロリの煮物をテーブルの上に並べる。
雪平
「わあ。美味しそうです」
日天
「ありがとうございます」
このメニューは、俺があっちの世界に行った時に
初めてココが作ってくれたものだ。
今だから言えるが、当時俺はセロリが苦手だった。
でもココが宿で作ってくれた料理に入ってるセロリは
どれも美味しくて、気付けば好きになっていた。
このセロリが入った煮物も、
今では俺の好物で、得意料理のひとつだ。
雪平
「いただきます」
雪平が義手でスプーンを持って、煮物を口に運ぶ。
美味しく作れたつもりではあるが、
果たして雪平の口に合うだろうか。
雪平
「ああ、美味しいです」
一口食べて、雪平が嬉しそうに笑う。
そして、二口目、三口目と雪平が食事の手を進める。
口では美味しいと言ってくれているけれど、
本当にそうなのだろうか。
実は眉間にしわが寄ったりしていないだろうかと、
ついつい雪平の顔を注意深く見てしまう。
雪平
「……清澄さん、そんなに見られると
食べづらいです」
日天
「あ……す、すいません。気になってしまって」
雪平
「本当に美味しいですよ。
それに……何処か懐かしい味がします」
日天
「懐かしい、ですか?」
雪平
「不思議だ。どうしてだろう」
日天
「……ココ?」
気付けばココの名前を呼んでいた。
もしかして何か思い出したのかと期待したから。
雪平
「ここ?」
でも雪平はきょとんとしてたから、
ああ、違うんだなってすぐ気づいた。
日天
「……いえ。なんでもないです」
焦るな。落ち着け。
ここで宿の話なんてしたら、雪平を混乱させるだけだ。
今は何も言うべきではないのだ。
それに、懐かしいというのは
ある意味、最高の褒め言葉だ。
きっとココの作ってくれた料理の味を、
上手く再現できているのだろう。
今はそれを嬉しく思い、俺は自分の食事を始めた。